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海の神様にもてあそばれた私 〜世界ドローン釣り大会の巻〜

「ねぇ、今度鎌倉でドローン釣り大会やるんだけど、出てみない?」
そんなふうに声をかけてきたのは、鎌倉の海の大きなイベント関係に携わっている知人だった。
彼からは、当会会員でもあるなかなかの釣り人・新田氏やアルファ氏にも声がかかっていた。私も彼らも、せっかく参加するのだからと、前日からある程度のガチ作戦と仕掛け準備はしていた。父や兄たちに2歳から釣りの英才教育を受けていた私は、ちょうど釣り歴50年の節目。
「まぁ、いいよ」と軽く引き受けた私。もちろんその時は、大会の規模も、自分がどんな立場になるのかも全く知らなかった……。
今回の大会は「世界ドローン釣り大会 in JAPAN」。
ドローン操縦士と釣り人の2名ペア制。
日本側15ペア、韓国側15ペア、計30ペアが出場予定。
釣りの内容はというと——
ビーチから150メートルほど沖に、ドローンを使って仕掛けを運び、そこで仕掛けを落とす。あとは通常の投げ釣りと同じく、リールでの釣りとなる。いわば「ドローン遠投釣り」とでも言えるスタイルだ。
出場費は一人6千円にもかかわらず賞金総額は300万円!

【賞金内訳】
1位ペア:100万円(50万円ずつ)
2位ペア:80万円(40万円ずつ)
3位ペア:40万円(20万円ずつ)
4位ペア:20万円(10万円ずつ)
5〜10位ペア:各10万円(5万円ずつ)

事前にこの賞金は聞いており、メインスポンサーであるドローンメーカーによる普及活動ではあるのだろうが、「なぜこんなに高額なのか?」という疑問は残ったまま。
ともかく当日を迎えた。
会場に着くと、さっそく他の選手たちの釣り道具が目に入った。
「え?これは……」
正直、お粗末な道具ばかり。私たちから見れば、お粗末な仕掛けで、どう見ても本気の釣り人はうちらの仲間くらいなものだった。
「これはもう、上位賞金はうちらの総取りだろう」と確信が芽生えた。
そんな折、例の知人がサラッと言う。
「大会前のセレモニーで、日本代表と韓国代表のチーム旗を交換する役、頼める?」
お人よしの私は、「まぁそれくらいなら別に」と軽く引き受けた。しかし、いざセレモニーが始まると……。鎌倉市長や日韓親善ゲストたちが壇上に並び、VIPゲスト陣がしっかりとした挨拶を始めた。どうやら今回の大会は、ただの釣り大会ではなく、日韓親善の一環としてちょっとした政治的な意味合いも含んでいたらしい。私は最初「大会前のセレモニーで、日本代表と韓国代表のチーム旗を交換する役」だけのつもりだったのだが……。その流れのまま、「日本選手団代表」という扱いになり、囲み取材がスタートしてしまったのだった。
韓国メディアから囲み取材がスタート。通訳さんが丁寧に韓国語で訳しながら、次々に質問が飛んでくる。
「なぜ今回参加したのですか?」という質問には、本音はもちろん「賞金狙い」だったが、そこは大人の対応。
スポンサー対応を意識し
「もちろん、世界中の子どもたちとドローンユーザーに、ドローンフィッシングの楽しさを知ってもらいたいからです」と模範解答。
加えて韓国記者団対応にもうひとネタ。
「実は妻が韓流ドラマが大好きでして。マッコリとカンジャンケジャン(韓国料理)にも目がなく、ぜひ親善してきてと後押しされたんですよ」と適当に即興回答。通訳さんが丁寧に訳すたびに、記者たちは時に笑ったり、大きくうなずいたり。
更に「今回の釣りの作戦は?」と聞かれ、勝利を見据え調子に乗った私は、記者団に対して試合前の亀田兄弟のようなリップサービスが止まらない。「今回は、ライバルたちでは到底狙えないようなヒラメなどの大物を狙っています。私どものガチな仕掛けでは負ける気がしないですから。」
その発言に、取材陣だけでなく、大会委員長までも笑顔でうなずいていた。なんだかんだで結局20分ほどの本格的な囲み取材となった。
さて、日本代表の仲間たちとは「今夜は今回の賞金で派手に祝賀会をやろう!」と盛り上がっていた矢先のこと。いよいよ競技開始……のはずが、ここで思わぬ事態。盛大なセレモニーが終わった直後に、大雨と雷注意報が発生!
安全上の理由から大会は開始前に中止が決定・・・。大抵のトラブルには笑って終わらせる特技のある私も流石にこの時ばかりは、ちびまる子ちゃんの顔に斜線が入った様な引きつり顔をしていたらしい。だが、それだけでは終わらなかった。大会委員長が私に近づき、ひと言。
「今後の大会を盛り上げるのに、ぜひ協力してほしい」と。どうやら今回の受け答えがウケたこともあり、次回以降の大会にも「選手団代表」として出場してほしいという流れに。さらに「次は日本国内とは限らず、世界大会なので海外開催の可能性も」とのこと。当然、旅費交通費は自腹であるのは間違いないかと。賞金どころか、今後は“参加コスト”という名の出費が発生する未来が見えてしまった。もちろん、断ることもできた。だがそこは私、**「せっかくのチャンスだし、コラムのネタにもなりそうだな」**と快諾してしまったのである。
まぁ旅費をかけても上位に入賞すればいいだけのこと。52歳にしてなかなかのギャンブルを買って出た、そんな私。
──先のことは考えず、
目先で拾えるものは拾う。これも業界人ならではの性(さが)というものだ。

だって古物商だもの(みつを風)

明日市場で、賞金が目前で幻となってしまい、5日たっても引きつった顔をした人がいたら、それは私です。どうかご自愛ください。
それではまた明日、市場でお会いしましょう!

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