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自称グルメ家らんど、経験値が上がった話

私は“自称グルメ家”を名乗っているので、時々知人友人から「ぜひ紹介したい店がある」と声をかけられる。
しかし今回の誘い主は、ジャンル分けするなら庶民代表の私とは違い、そこそこのセレブ系。私は、店に入る前から「これは会計を聞くまで平常心で食べられるのか」と不安がよぎっていた。

出てきた料理は、肉でも魚でも、選ばれた素材はどれも一流。
「これは相当の有名人が口にしたに違いない。もしそうなら、自称グルメ家としてまた一段レベルが上がる」と胸の中でワクワクしていた。

そんな時に目に入ったのがドリンクメニュー。
三大ウイスキーをはじめ、トップブランドのお酒メニューがあるが値段は書いていない。
「ここで普段の勢いで飲み食いしたらいくらになるんだ?」と想像しつつ、質も量も控えめにオーダーを続けていると、友人が「あれ、今日はあまりお酒が進まないですね?」と不思議そうに聞いてきた。
とっさに、「いや、うまい料理を食べる時は、あまり酒は飲まないんだ」と精一杯の見栄を張る私。
だが返ってきた一言に私は豹変する。
「え、今日は飲み放題プランでどれでも大丈夫なんですよ?」
“自称グルメ家”の矜持はどこへやら、「まぁいい料理といいお酒は話が別かなぁ」などと見え透いたことを言い、そこからは親の仇のようなペースでグラスを重ねる私。山崎山崎白州白州山崎白州響響山崎・・・となる訳である

今回の料理、値段は高いかもしれないが、そこそこの有名どころも食べているのではないか。
せっかく高い支払いをするなら、せめて「~にも出している料理人の料理を食べるグルメ家」との称号をゲットしたい。
得られる称号の高さに比例してお会計もヤバい事になりそうだが…。

「大将、ちなみにこの料理を召し上がった有名人って、どなたかいらっしゃるんですか?」
返ってきた答えは――「天皇陛下にお出ししたことがあります」。

……思わず口にしていた山崎ハイボールを吹き出しそうになった。
「げ!御用達系!」
財布の心配も、見栄の嘘も、グルメ家自慢の計画も、その一言で一気に吹き飛んだ。

その後も途中のトイレへ歩くとき、左右の手足が同時に出ないように注意を払うなど、平常心は保てなかった。
しかし!一番驚いたのはそのお会計だ。伝票の数字を頭の中で「なんでも鑑定団」風に一の位から読み上げると――「ん?」となる。庶民の私でも十分払える額だったのだ。

友人はわかっていたのだ。
「高くて旨いのは当たり前。けれど、この料金でこのクオリティだからこそ私は感動する」という私の性分を。
これではまるでドリンク代を払っただけで料理はタダみたいなもんだ!と痛感した。

後から知ったのは、あの三大ウイスキーは友人の顔で特別に出してもらったものであり、「そうそう世の中にうまい話はない」とも痛感するのであった。
だが、だとしても――今後また家族に粗相をしたときの切り札として十分に使えるカードをゲットしたのである。

こうしてまた一段、自称グルメ家としてのレベルUPを果たした夜であった。

安いうまいは必要だよね!
だって古物商だもの(みつを風)
それではまた明日、市場でお会いしましょう!

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