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ここ5年で一番うまかったもの

「ここ5年で一番うまかった。」

まさか、この一週間でそれを二度も口にするとは思わなかった。

私もこの歳になると、焼肉、寿司、フレンチ、中華……ある程度の外食は経験してきた。ごくまれに高級店へ行く機会もある。

ただ、正直なところ「味」だけで言えば、ある程度のところで頭打ちになると思っている。

あとは店の雰囲気だったり、接客だったり、器だったり、景色だったり。もちろんそれらも料理の価値だ。

だから、「ここ5年で一番うまい!」と思えるような料理には、そうそう出会えるものではないと思っていた。

ところが、この一週間で、そんな料理に二度も出会ってしまった。

一つ目はイラン料理。

市場にはイラン人の方も多く、日頃から接する機会はあるのだが、たまたま知人に連れられて横浜・福富町にあるイラン料理店へ行った。

「本場のケバブを食べよう。」

そう言われた瞬間、頭に浮かんだのは屋台で売っている、回転する肉を削ぐ、あのケバブ。

ところが全然違った。

後から知ったのだが、あれは「ドネルケバブ」という別のトルコ料理らしい。

私が食べたのは、ご飯の上に香ばしく焼いた肉や細かく刻んだ野菜などを乗せ、それらを混ぜながら食べるイラン料理。

見た目は決して派手ではない。

ところが、一口食べて驚いた。

「えっ……なにこれ。めちゃくちゃうまい。」

思わず唸った。

市場ではあれだけ多くのイランの方が働いているのに、彼らが普段こんなにおいしいものを食べているとは知らなかった。

そして数日後。

今度は、私がよく遊びに行く海のマリーナでの出来事。

浮き桟橋には黒いカラス貝がびっしり付いている。

子どもの頃から「あれは食べちゃダメな貝」というイメージしかなく、何十年も見向きもしなかった。

ところが一緒にいた料理人の友人は違った。

「これ、ムール貝(ムラサキイガイ)ですね。めちゃくちゃうまいですよ。」

そう言うなり、網でガシガシと貝を採り始めた。

半信半疑で酒蒸しにしてもらった。

……。

正直、鼻血が出るかと思うくらいうまかった(笑)。

なんて味の濃い貝なんだろう。

さらに料理人は酒蒸しの残り汁を捨てない。

そこへパスタを投入し、貝の旨みだけでボンゴレを作ってくれた。

これがまた絶品。

そして翌朝。

残しておいたスープに焼きたてのトーストを浸して朝食を出してくれた。

これまた最高だった。

一粒で三度おいしいとは、まさにこのことだ。

もちろん、マリーナに付いている貝は貝毒や水質などの問題もあるため、食べることを推奨する話ではない。その点だけは誤解のないようお願いしたい。

ただ、私にはもう一つ驚きがあった。

その浮き桟橋は全長1キロ以上ある。

場所によっては1メートルの間に何十個も天然ムール貝が付いている。

全体を見渡せば、ほぼ無限と言っていい。

その瞬間、頭の中で思ってしまった。

「私は一生分の天然ムール貝食べ放題の利権を手に入れてしまったのではないか。」

そして今回、一番の収穫はケバブでもムール貝でもなかった。

「世の中のおいしい物は、だいたい食べ尽くした。」

そんな勝手な思い込みをしていた自分に気付けたことだ。

高級料理を探すより、自分がまだ食べたことのない料理を探す方が、人生はずっと豊かになるのかもしれない。

年齢を重ねると、「初めて」が減っていくような気がする。

でも実際は違う。

知らない料理、知らない文化、知らない味は、まだまだ世の中に山ほどある。

次の「ここ5年で一番うまかった。」は、案外すぐ近くに転がっているのかもしれない。

それでは明日市場でお会いしましょう。

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