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8.42026
我が家の最終決定権
今週は、私が我が家でいかに威厳のない父親だったのか、というお話です。
うちの子供たちは以前から毎日のように、
「小さいワンちゃん飼いたい!」
と言っていました。
しかし私は、そのたびに断固反対。
というのも、私には昔から飼いたい犬種が決まっておりまして、子供の頃に飼っていたピレネー犬なら飼っても良いかなと。
「犬はダメだが、強いて言うならピレネー犬。それ以外は認めん」
と、長年にわたり父親としての権力を存分に振りかざしていたわけです。
なんだったら私は、小型犬はあまり好きではない方でした。
娘たちが、
「犬飼いたい、犬飼いたい」
と言うたびに、嫁も、
「パパがダメって言ってるんだから諦めなさい」
と言っていたので、
うむ。やはり我が家の最終決定権は俺にある。
そんなふうに思っていました。
ところが先週、その最終決定権が、どうやら私には最初から存在していなかったことが判明しました。
先週、私は仕事で3日間、愛媛県へ出張に行っておりました。
出張を終えて帰ってきた直後、ちょっとした事情があり、被災した友人の娘さんと、その子のワンちゃんを3日間、我が家で預かることになりました。
突然始まった、我が家の3日間限定ワンちゃん生活です。
子供たちは当然大喜び。
散歩をしたり、ご飯をあげたり、一緒に遊んだりと、短いながらも犬のいる生活を満喫していました。
私としても、
「まあ3日間くらいなら、こういうのもいいもんだな」
なんて思っていたわけです。
そして3日目。
その日の夜、私は外出先から家へ帰る途中、
「そういえば今日でワンちゃんともお別れか」
と思っていました。
昼間のうちに帰ることになっていたので、
「もう家にはいないんだろうな」
と。
あれだけ喜んでいた子供たちも、少し寂しがっているかな。
そんなことを考えながら玄関を開け、
「ただいまー」
すると、
「キャンキャン!」
……ん?
犬の声がする。
あれ?
まだ帰ってなかったのかな?
予定が変わったのか?
そう思いながら家の中へ入ってみる。
ところが、何かがおかしい。
見慣れないケージがある。
見慣れない犬用のベッドがある。
真新しいワンちゃん用品がいろいろ揃っている。
そして何より、
犬が違う。
さっきまで我が家で預かっていたワンちゃんではない。
小さな子犬がいる。
「……何が起こったのかな?」
嫁を見ると、何やら少し言いづらそうな顔をしている。
そして話を聞いて、ようやく全貌が判明しました。
実は私が愛媛県へ出張に行っていた3日間。
子供たちが相変わらず、
「犬飼いたい、犬飼いたい」
と言うので、嫁がペットショップへ連れて行ったらしい。
まあ、ここまでは分かります。
見るだけだったのでしょう。
ところがそこで、一匹の子犬と出会ってしまった。
そして一目惚れしたのは子供たち……
というより、
どうやら主犯格は嫁だったらしい。
そのまま、
「めんどくさいパパには強行突破で、この子を飼おう」
という話になり、
私が愛媛県にいる間に、話はほぼ決定。
そして、預かっていた友人のワンちゃんが帰るその日に、まるで入れ替わるように新しいワンちゃんを迎えに行ってきたらしいのです。
つまり我が家は、
3日間限定のワンちゃん生活が終わったその日に、
そのまま無期限のワンちゃん生活へ突入したわけです。
しかも私は、
「犬はダメだ。飼うならピレネー犬。それ以外は認めん」
などと長年偉そうに言い続けていたにもかかわらず、
犬を飼うという我が家の重大決定について、
相談されることもなければ、
許可を求められることもなく、
そもそも決定したことすら知らされていなかった。
父親としての威厳、完全崩壊です。
とはいえ、犬を飼うとなれば今後、家族で出掛ける時など、何かと協力してもらうこともあるでしょう。
そこで私は、同じ敷地内に住む母親、通称ランドママにも報告せねばと思いました。
「いや〜、参ったよ。俺が愛媛に行ってる間に、嫁と子供たちが勝手に犬を飼うこと決めちゃってさ」
すると母親も、
「そんなの私に断りもなく飼われたら困るわよ」
から始まり、
「でしょ?あいつら本当に困ったもんだよな」
と、そんな会話でようやく私にも肉親ならではの味方ができると思いきや、返事はそうではなかった。
母親から衝撃の一言。
「うん。私もそのペットショップ、一緒に行ったからね」
……。
共犯でした。
なんなら孫と嫁に甘い母も完全に抱き込まれていたらしい。
どうやら私は、完全に一人だけ蚊帳の外だったようです。
我が家の最終決定権は俺にある。
長年そう思っていましたが、
最終決定権どころか、
どうやら私は会議にすら呼ばれていなかったようです。
そんなわけで、
愛媛へ出張に行っている間に私の知らないところで話は進み、
帰ってきたら、たまたま3日間だけ別のワンちゃんとの生活が始まり、
そのワンちゃんが帰ったと思った日の夜、玄関を開けたら別の犬がいた。
思えば愛媛出張へ向かう際、ずいぶんと家族に温かく見送られ、
「俺も父親として、それなりに大事にされてるな」
なんて思っていたのも勘違いだったのかもしれません。
あの、
「パパ、行ってらっしゃい!」
は、
「よし、パパがいなくなった!」
という意味だった可能性があります。
気がつけば、知らないうちに家族が一人……
いや、一匹増えていました。
そういえば、よくよく考えてみれば、この夏にはハムスターまで増えていました。
「キンクマ」という種類のハムスターなのですが、これまたある日突然、私の知らないところで我が家のペットとして飼い始めていたのです。
つまり今回のワンちゃんで、この短期間に早くも2匹目。
おいおい。
このペースでいったら、数年後には家中を動物が歩き回って、
「ムツゴロウさん」
とか呼ばれてねえか、俺。
しかも恐ろしいのは、その頃にもおそらく私は何の決定権も持っていないということです。
これまで私は、
「大型犬は好き。小型犬はむしろ苦手」
くらいのことを散々言ってきました。
そんな私がこれから毎日、小さなワンちゃんと一緒に暮らすことになりました。
果たして数ヶ月後、
「やっぱり犬って最高だよな!」
などと言いながら、家族の誰よりも溺愛している愛犬家になっているのか。
それとも今まで通りなのか。
自分でもまったく分かりません。
未知の世界です。
とまあ、そんな我が家のほっこりした話だけで今週のコラムを終わるのもなんなので、ガラッと話題を変え、最後に昔の買取現場でのオマケ小話を一つ。
ある日、私が買取の現場へ伺った時のことです。
いろいろと品物を見せてもらったのですが、正直なところ、あまり大した品物が出てこない。
そこで依頼主の女性に、
「何かもう少し変わった物でもあれば、そういうものでも買い取りますよ」
と声を掛けました。
すると、その女性が言うのです。
「大した物じゃないんだけどね。私の母が昔、魯山人と親しい友達だったから、その人からいろいろもらった物があるんだけど、そんなのでもいい?」
魯山人。
北大路魯山人です。
これは大変です。
頭の中では一瞬にして、
「とんでもない陶器が出てくるんじゃないか?」
「これは大仕事になるぞ」
と期待が膨らみます。
女性が、
「ちょっと待っててね」
と言って家の奥へ入っていく。
私はドキドキしながら待っていました。
そして奥の奥から大事そうに持ってきた物を見てみると……
マトリョーシカ。
「……これですか?」
「そうそう。これもらったのよ」
どう見ても魯山人ではない。
よくよく話を聞いてみると、
その女性が言っていたのは、
「魯山人」ではなく、
「ロシア人」。
私は勝手に、
「魯山人の友達だった」
と聞き間違えていたのでした。
世の中、最後まで話はちゃんと聞かないといけません。
そして今回の犬の件に関しては、
最後まで聞くどころか、
そもそも私には何の話もありませんでした。
それではまた、市場でお会いしましょう。

